二階建ての巨大な旅客機「エアバスA380」といえば、エミレーツ航空を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ドバイを拠点とするこの航空会社は、いまでは世界の主要都市を結ぶ存在です。ところが、その歴史を振り返ると、始まりは驚くほど小さなものでした。

エミレーツ航空は、1985年にドバイで運航を始めた航空会社です。公式サイトの沿革によれば、最初の路線はドバイとカラチ、ドバイとムンバイの2路線で、使われた機体は他社から借りたものでした。そこから現在まで、どのように成長してきたのでしょうか。この記事では、エミレーツ航空の成り立ち、機材、客室、空港での過ごし方を順にたどります。あわせて、利用を考えるときに知っておくと安心な点も先にお伝えします。

エミレーツ航空の基本データ

項目 内容
拠点空港 ドバイ国際空港(DXB)
運航開始 1985年10月25日(ドバイ発カラチ、ムンバイ行き)
主力機材 エアバスA380、ボーイング777、エアバスA350
就航地 年間を通じて140を超える就航地(公式サイトの機材紹介ページより)
客室クラス ファースト、ビジネス、プレミアムエコノミー、エコノミー(機材・路線により異なります)

※ 2026年11月3日時点の公式サイトの掲載内容にもとづいています。機材や設備は更新されるため、最新の状況は予約時の表示が基準となります。

利用前に知っておきたい二つの前提

最初に、エミレーツ航空を選ぶときの前提を二つお伝えします。良い面だけでなく、旅の組み立て方に関わる点を先に知っておくほうが、後の説明も受け取りやすいためです。

ドバイを中心に組み立てられた路線網

一つ目は、路線網がドバイを中心に作られている点です。公式サイトの沿革には、路線の拡大を紹介する見出しとして「ドバイへ、そしてドバイを経由して世界をつなぐ」という趣旨の言葉が掲げられています。つまり、多くの旅程はドバイでの乗り継ぎを含む形になります。

乗り継ぎは、移動時間が長くなる点では負担です。一方で、ドバイは次の章で見るとおり、空港そのものが航空会社と一体で整備されてきた場所です。待ち時間の過ごし方まで含めて設計されていることを知っておくと、乗り継ぎの印象は変わってくるかもしれません。

機材と客室設備は路線ごとに異なる

二つ目は、同じ「エミレーツ航空」でも、乗る飛行機によって座席や設備が違う点です。公式サイトの各ページには、同社が新旧の型が混在する形でA380、A350、ボーイング777を運航していること、そのため実際の便では路線や機材構成によってサービスが異なる場合があること、運航上の都合で直前に機材が変わる場合があることが明記されています。

たとえば、機内のシャワー設備やバーラウンジは、A380の一部の機体に備わる設備です。すべての便で使えるわけではありません。気に入った設備がある場合は、ご自身の便がどの機材で運航されるかを予約の際に確認しておくと、期待とのずれを防げます。

この二点を踏まえたうえで、まずはこの会社がどのように生まれたのかを見ていきましょう。補助金に頼らず、短い準備期間で立ち上がったという経緯が、現在の姿を理解する手がかりになります。

一通の依頼から始まった1984年

公式サイトの沿革によると、構想が動き出したのは1984年です。当時のアラブ首長国連邦の国防大臣で、ドバイの王族でもあるシェイク・モハメッド・ビン・ラシッド・アル・マクトゥームが、dnataの専務取締役だったサー・モーリス・フラナガンに、航空会社を設立できないかを調べるよう依頼しました。

同じ年の12月には事業計画がまとまり、新しい航空会社の名前として「エミレーツ」が選ばれています。依頼から計画の完成まで、1年に満たない速さでした。

5か月で開業するという課題

1985年3月、フラナガンには「5か月で航空会社を立ち上げる」という使命が課されました。元手となる開業資金は1,000万ドルです。求められた条件は「見栄えがよく、質が高く、利益を出すこと」と伝えられています。さらに、ドバイは航空市場を開放する方針をとっていたため、補助金も、競争からの保護もありませんでした。

公式サイトが紹介するこの条件は、エミレーツ航空の性格をよく表しています。守られた市場で育った会社ではなく、最初から他社と同じ土俵で競うことを前提に生まれた会社だということです。

借りた機体で飛んだ初日

そして1985年10月25日、エミレーツ航空はドバイからカラチとムンバイへ最初の便を飛ばしました。使われたのは、パキスタン国際航空からウェットリース(乗員を含めた機体の賃借)で調達したボーイング737とエアバスA300 B4です。

自社の機体を持たないままの船出でした。自前の機体が届いたのは、2年近く後の1987年7月3日です。トゥールーズからドバイへ、エアバスA310-304(登録記号A6-EKA)が飛来し、同社初の自社保有機となりました。

最初の便が飛んだあと、会社はどのように路線を広げていったのでしょうか。

最初の5年で14都市、20世紀末には50都市へ

公式サイトによると、運航開始から最初の5年間で、ネットワークは14都市に広がりました。ドバイのほか、ムンバイ、デリー、カラチ、アンマン、コロンボ、カイロ、ダッカ、マレ、フランクフルト、イスタンブールなどが含まれます。南アジアと中東の都市が中心で、そこにフランクフルトやイスタンブールが加わっています。

1999〜2000年度には、32機の機材で470万人を運んでいます。2000年を迎えるころには、就航都市は50に達しています。リヤド、テヘラン、シンガポール、マニラ、マンチェスター、ロンドン・ヒースロー、香港、パリ、ローマ、チューリッヒ、ジャカルタ、メルボルン、クアラルンプール、ミュンヘンなどが、1990年代に加わった都市として紹介されています。

東アジア、東南アジア、オセアニアと、ドバイから見て東側にも西側にも伸びていることが分かります。ドバイを軸にして、世界を二つの方向から結ぶ構図が、この時期に形になりました。

路線が増えれば、次に問われるのは機内での過ごし方です。この点でも、エミレーツ航空は早い時期から投資をしていました。

機内の体験に早くから投資してきた歴史

公式サイトの沿革は、エミレーツ航空を「機内エンターテインメントの先駆者」と位置づけています。保有機材のすべての座席、すべての客室クラスにビデオ装置を設置した、世界で最初の航空会社になったと記されています。

通信の分野も同様です。エアバス機で機内通信を導入した最初の航空会社となり、3つの客室クラスすべてで使えるようにしました。エアバスの機材に機内ファクス機能を備えた最初の航空会社でもあります。いまのように個人のスマートフォンが普及する前の時代に、離れた相手と連絡を取れる環境を機内に整えていたことになります。

現在の座席モニターについても、公式サイトには具体的な数字が載っています。エンターテインメントは最大6,500チャンネル、子ども向けには150を超えるチャンネルが用意されています。ビジネスクラスのボーイング777では23インチのHDテレビ、プレミアムエコノミーでは13.3インチのHDテレビが案内されています。最新の機材のエコノミークラスでは、4K HDのタッチスクリーンが使われています。

2016年のスカイトラックス・ワールド・エアライン・アワードでは、エミレーツ航空が「世界最高の航空会社」に選ばれ、機内エンターテインメント部門でも12年連続の受賞となったと、公式サイトの沿革に記されています。

機内の体験を支える土台が、機材です。次に、この会社の看板ともいえる2種類の大型機を見てみましょう。

A380とボーイング777を軸にした機材

公式サイトの機材紹介には、「世界でも機齢の若い機材群の一つ」という趣旨の説明と、A380、A350、ボーイング777という3機種が並んでいます。

最初に発注した航空会社としてのA380

A380は、世界最大の旅客機です。沿革によれば、エミレーツ航空はA380を最初に発注した航空会社で、ファーンボロー航空ショーで7機を確定発注し、さらに5機の追加オプションを付けました。以後の20年にわたり、同社の機材の旗艦となっています。

公式サイトの仕様欄では、A380の重さは510〜575トン、航続距離は8,000海里(約15,000キロメートル)と案内されています。座席数は構成によって異なり、4クラスの超長距離仕様で484席、3クラスの長距離仕様で517席、3クラスの超長距離仕様で489席、2クラスの長距離仕様で615席です。同じA380でも、座席の数も配置も機体ごとに違うことが、数字からも読み取れます。

世界最大の777運航会社

ボーイング777については、公式サイトが「世界最大のボーイング777運航会社」と明記しています。沿革には、42機のボーイング777を発注した契約が、当時の777の発注として史上最大であったことも記されています。

777は、6大陸のおよそ100都市に就航しているとのことです。仕様欄では、777-300ERの航続距離が7,880海里(約14,594キロメートル)、3クラスの座席数が364席、358席、354席の3種類で案内されています。777-200LRは9,420海里(約17,446キロメートル)です。

2022年11月には、777の内装を新しくする大きな改修計画が始まりました。新しい座席とプレミアムエコノミーの客室を備えた機体が、順次運航に入っています。さらに、30機のボーイング787-9の購入と、エアバスA350の大型発注も沿革に記載されており、機材の入れ替えが今も続いていることが分かります。

機材の話から、実際に座る客室へと進みましょう。

客室クラスごとに見る機内の姿

エミレーツ航空の客室は、ファースト、ビジネス、プレミアムエコノミー、エコノミーの4種類です。ただし、先ほど触れたとおり、すべてのクラスがすべての機材にあるわけではありません。

ファーストクラス

ファーストクラスの最大の特徴は、扉で完全に囲まれた個室型の座席「プライベートスイート」です。公式サイトは「自分専用のプライベートジェットに限りなく近い」と表現しています。ボーイング777の個室は、温度の調整、ムード照明、そして業界で初めてという仮想の窓を備え、座席の革張りはメルセデス・ベンツSクラスを思わせる仕立てだと紹介されています。沿革では、この世界初の完全個室型ファーストクラスを「ゲームチェンジャー」と呼び、デザインにメルセデス・ベンツの意匠が取り入れられたと説明しています。

A380のファーストクラスには、プライベートスイートに加えて、機内のシャワースパがあります。化粧品ブランドのヴォヤ(Voya)の製品を使い、到着前に身支度を整える設備です。同じくA380の機内ラウンジでは、他の乗客と飲み物を楽しみながら過ごせます。

ビジネスクラス

ビジネスクラスは、完全に倒れるフルフラットの座席が基本です。再設計されたボーイング777の座席では、23インチのHDテレビがつきます。新しい座席は2席ずつのペアで、1列に6席が並ぶ配置になり、座席の幅も以前より2インチ広くなったと案内されています。

食事は事前予約ができます。公式サイトによると、出発の14日前から24時間前までの間に、メインの料理を選んで予約できます。ただし、この予約が使えるのは一部の路線に限られるとも書かれています。

プレミアムエコノミー

プレミアムエコノミーは、エコノミーとビジネスの間に位置するクラスです。クリーム色の革張りの幅広い座席、クッション付きのレッグレスト、6方向に動かせるヘッドレストが特徴です。A380では、このクラスの座席は機体の前方にあり、到着時に早く降りられる位置にあると説明されています。

食事は、ロイヤルドルトンの食器と、リネンで包んだステンレスのカトラリーで供されます。最新のA350では、プライバシースクリーンを備えた電動式の座席が導入されており、背もたれやレッグレストの角度を、ボタンひとつで調整できます。

エコノミークラス

エコノミークラスでは、最大6,500チャンネルのエンターテインメント、機内Wi-Fi、各地の料理にちなんだ食事が案内されています。Wi-Fiは、機材や路線によっては使えない場合があるとの注記がついています。長距離の便では、持続可能な素材を使ったアメニティキットが無料で配られます。

環境面の取り組みも、公式サイトで具体的に説明されています。エコノミークラスとプレミアムエコノミーの食事用トレーや小皿は、洗浄したあとに砕かれ、新しい製品に作り替えられる循環型のリサイクルに回されます。その製造施設はUAE国内にあり、太陽光発電を取り入れています。

客室の次は、飛行機に乗る前と降りた後の時間です。ここにも、エミレーツ航空の特色があります。

空港も一体で整えてきたドバイ

エミレーツ航空の成長は、ドバイ国際空港の拡張と歩調を合わせて進んできました。沿革には、空港の整備が節目ごとに記されています。1992年には、ドバイ国際空港で大規模な改修が完了し、エミレーツ航空は新しい出発ターミナルに移りました。のちに、シェイク・ラシッド・ターミナルが開業し、空港の年間処理能力は2,200万人に拡大しています。

エミレーツ専用のターミナル3

エミレーツ専用のターミナル3は、開業して最初の1か月で50万人の乗客が出発したと記録されています。また、1億2,000万ドルを投じた機内食の施設も稼働を始めたと記されています。

A380のためのコンコースA

もっとも象徴的なのが、世界で初めてA380のために作られたコンコースAです。この施設によって、ドバイ国際空港の年間処理能力は7,500万人に達しました。A380の2階席へ直接搭乗できる設計で、ファーストクラスとビジネスクラスの専用ラウンジは、合計で19,000平方メートルを超える広さがあります。

ラウンジについては、公式サイトで、ドバイや世界各地のエミレーツ・ラウンジのほか、空港にエミレーツ・ラウンジがない場合に利用できる提携ラウンジも案内されています。ドバイでは、搭乗券のほか、顔認証でも入場できるとされています。

航空会社が空港の設計まで関わるからこそ、乗り継ぎの時間も旅の一部として組み立てられます。これは、最初に触れた「ドバイを経由する」という前提への、ひとつの答えといえます。

日本との結びつき

日本の読者にとって気になるのは、日本の都市との関係でしょう。公式サイトの沿革では、路線を拡大した時期ごとに、新たに加わった都市の一覧が載っています。2000年から2010年の一覧に大阪、2010年から2019年の一覧に東京(成田)と東京(羽田)が含まれています。日本の複数の空港が、同社の路線網の歴史に順に加わってきたことが分かります。

ここでは、各路線の現在の運航状況には触れません。運航の有無や便数は変わるため、実際に利用される際は、ご自身の旅行日の時刻表で確認されるのが確実です。

世界をドバイでつなぐ選択肢として

ここまでの内容を振り返ります。エミレーツ航空は、1984年の一通の依頼に始まり、1985年に借り物の機体で飛び立った航空会社です。補助金も保護もない環境で、機内の体験と空港の整備に先んじて投資し、5か月の準備期間から出発して、世界の主要都市を結ぶ存在になりました。

利用するうえでの前提は二つありました。ドバイでの乗り継ぎが多くなること、そして機材によって設備が異なることです。前者は、ドバイの空港設備と合わせて考えると、旅の一部として楽しみやすくなります。後者は、予約時に機材を確かめることで、納得のうえで選べます。

遠くの国へ向かう長い旅では、座席の広さ、食事、映画、そして乗り継ぎの過ごし方が、疲れの感じ方を左右します。A380の個室やシャワースパに憧れる方も、手頃なエコノミーで乗り継ぎを楽しみたい方も、エミレーツ航空の歩みを知っておくと、ご自身の旅に合う選び方が見えてくるのではないでしょうか。このデータベースでは、ほかの航空会社についても順次ご紹介していきます。